「不当な」というアイマイな文言の謎(有川浩『図書館戦争』)

「正論は正しい、だが正論を武器にする奴は正しくない。お前が使っているのはどっちだ?」
(有川浩『図書館戦争』角川文庫 より)

こんにちは。正論を吐いてますか?野村です。

今回紹介する作品で、いくつか目についたのが「正論」という言葉。
正しければ何を言ってもいいわけじゃありません。確かにその通り。

ただ、それも正論なのでは?という疑問も浮かぶ。堂々めぐりですな。

ひとつ言えることは「堂々めぐりを恐れちゃいけない」っていうこと。

深く考えたら負け

というわけで、有川浩(ありかわひろ)が2006年に発表した小説『図書館戦争 図書館戦争シリーズ (1) (角川文庫)』を読みました。

2019年の日本。書物の検閲を巡り、国内の公的組織同士が武力衝突している、という設定。
なんというか、正気の沙汰じゃない。深く考えたら負けなのか?

主人公は、図書館が有する防衛組織「図書隊」へ大卒で入隊した22歳女子。
高校時代に会った王子様のような図書隊員を姿を追い求めることが入隊の動機。

文体はライトノベル調。ミニタリー物であれど恋愛要素が強く、少女マンガの流儀も踏襲している感触。
意欲的なエンターテインメント作品ですよ。

現実の「宣言」との相違点

武装せざるを得ないほど「図書館の自由」が脅かされる状況。それを描こうという発想には、ただもう驚くほかないです。
その着想は、日本図書館協会による「図書館の自由に関する宣言」(以下「宣言」と略します)から得たとのこと。

現実の「宣言」は、以下のページで閲覧できます。

で、このページを読んでいたら、「宣言」の第4が物語上のものと違っていることに気づきました。

物語上の「宣言」の第4は「図書館はすべての不当な検閲に反対する」。
対して現実の側は「図書館はすべての検閲に反対する」。

「不当な」という文言がないぶん、現実の「宣言」のほうがパワフルです。

さらに調べてみたところ、現実の「宣言」の1954年版には「不当な」という文言が付いていたようです。

※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。100年を越える図書館の歴史の中で、図書館はどのような働きをしてきたのか。近代日本史の中で、どのように位置づけられているのか。図書館勤続...

どうやら改定によって「不当な」が削除された模様。
当然です。そうしなきゃ「不当でなければ検閲を受け入れる」ということになる。
不当かどうかの基準はアイマイ。せっかくの宣言がなしくずしになる恐れがある。

というか、検閲に不当とか妥当とかあるのだろうか?

ともかく、物語中の図書館は武装してまで「宣言」を守っている。
その宣言にアイマイな要素があるのは似つかわしくない。
そこをあえて「不当な」を挿入したのであれば、……やっぱ、検閲を受け入れる余地を設けているのかな?

例えば「図書館の自己チェック機能が崩壊した状況」あたりを想定しているとか。
ありえなさそう。でも、図書館で戦争させてるくらいだから目を離せない。

気になるなあ。次巻も読んでみよう。

てなわけで今回はこれにて。

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枕は高いほうがいい。高いほうが本を読みやすいのですよ。なので広めのタオルケットを何重にも折りたたんでその上に枕を載せてその上に頭を載せてたりする。