BABYLON SYSTEM IS THE VAMPIRE
SUCKING THE CHILDREN DAY BY DAY
(ボブ・マーリー「バビロン・システム」より)
こんにちは。庶民に溶け込んでますか?野村です。
レゲエの歌詞に登場する吸血鬼は、悪政や理不尽な社会の仕組みを象徴することが多いです。
かたや今の日本での吸血鬼のイメージといえば、もうちょっと庶民に溶け込んでいる印象。
日々を過ごすためには血ばかり吸ってはいられない。
そんな哀愁を漂わせていたりするのでは?
怪物としては意外と新参者
今回紹介するのはエリック・バトラー『よみがえるヴァンパイア――人はなぜ吸血鬼に惹かれつづけるのか――』松田和也・訳(青土社)です。
「ヒトの生き血を吸う怪物や神」の伝承や神話は世界各地にあります。
なので、そこから時代を追って紹介してくれるのかと期待してたけど、違ってました。
いわゆる吸血鬼、つまりヴァンパイアに絞り、文学や映画、TV番組などから考察している本です。
「ヴァンパイア」という言葉が登場したのは思ったより最近で、1725年のこと。
オーストリアに仕えていた軍医がセルビアに駐屯していた際に書いた報告書に記されたのが最初です。
その報告書を要約するとこんな感じ。
- 数週間前に埋葬したはずの人間が、夜な夜な墓を抜け出し、次々と村人を襲い、死に至らしめた。
- 村人を襲った者のことを村人たちは「ヴァンパイア」と呼んでいた。
- 軍医がヴァンパイアを検分したところ、全く腐っていなかった。
- その口の中には血が残っており、村人の証言によれば「殺した人々から吸ったもの」とのこと。
- ヴァンパイアは、怒り狂った村人たちに杭で貫かれ、焼かれ、灰になった。
この話が広まり、数々の創作のモチーフになったそうです。
そして19世紀末、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』やシェリダン・レ・ファニュ『女吸血鬼カーミラ』といった小説がヴァンパイアのイメージを決定づけます。
伝承ではなく、フィクション作品によって形成されてきた怪物だったのですな。
それはそうと、史上最初のヴァンパイア、奇妙な話ですよね。
本書では、この報告書の背景にセルビアという土地の政治的な要因があること述べていました。
それは「ヴァンパイアの排除が支配者に対する村人たちのメッセージ」というもの。
役人側の阻止に反し、儀式めいた怪物退治を遂行することで被支配者の意思を誇示したとのこと。
冒頭のレゲエの例もそうだけど、社会の理不尽と吸血鬼の関係は根が深そうです。
てなわけで今回はこれにて。