ヘッセ『荒野のおおかみ』に登場するモーツアルトが最高

「君はなんでも知ってるね、ヘルミーネ」と私は驚いて叫んだ。「全く君の言うとおりだ。でも、君は僕とは全然別だよ! 君は僕とは反対だ。僕に欠けているすべてのものを君は持っている」
「あんたにはそう思えるのよ」と彼女は手短かに言った。「それでいいのよ」
(ヘルマン・ヘッセ『荒野のおおかみ』高橋健二・訳 新潮文庫 より)

こんにちは。脳内に誰か住んでますか?野村です。

今回紹介するのは、脳内のゲーテやモーツァルトと会話する男の物語。
なんとなくジョニ・ミッチェル「Twisted」の歌詞を思い出したりもします。
自分の中に何人もいたら賑やかだろな。やはり大は小を兼ねますよ。

自尊心をこじらせた男の物語

というわけでスイスの作家、ヘルマン・ヘッセが1927年に発表した小説『荒野のおおかみ (新潮文庫)』を再読しました。

動物のお話じゃありません。「荒野のおおかみ」というのは、あだ名のようなもの。
主人公が、社会に同調できない自分の中の自分をこの名前で呼んでいるのです。

そんな自尊心をこじらせた50歳の男が、一人の若い女性への服従を通し、自己を再構成する尋常じゃない経緯が綴られてます。

ラジオは音楽に暴力を加える

本書を初めて読んだのは10年くらい前。
「ステッペン・ウルフ」というロックバンドの名称の由来ということで手に取ったのですよ。
わかりにくい言葉で書いてあるわけじゃないけど、なぜか難解に感じたもんです。
それでも部分的に興味深い記述も多く、たびたび開いていました。

で、今回2度目の通読。やっぱ、印象はかなり違う。
冒頭から130ページほどの間、主人公と一緒に停滞した状況に耐えれば、物語が大きく動き出す。
最初はそのことを知らないで読んだので不安になったもんです。
今回それがなかった分、安心して物語に入り込めました。

終盤でモーツァルトがラジオを組み立てる場面がどうしようもなく好き。
そのあとのモーツァルトの長ゼリフが最高!
ラジオはヘンデルの曲に暴力を加える。それでもヘンデルは神々しいとのこと。
なにそのヘンデル?聴いてみたい。

てなわけで今回はこれにて。

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枕は高いほうがいい。高いほうが本を読みやすいのですよ。なので広めのタオルケットを何重にも折りたたんでその上に枕を載せてその上に頭を載せてたりする。